ねことわたし

neko_to_watashi

舞台は小樽、手宮線跡地の公園。これは、私と、ひと夏のちいさな友人の、なんでもない夏の日のひと幕である。

「天気もいいしどこか出かけたいなあ」
暇を持てあましていた大学3年生の夏休み、私はとくに目的も理由もなく近所を散歩することにした。
じりじりとした夏の日差しを感じながら海の方向へ坂を下っていくと、線路のように横に伸びた公園を見つけた。

“手宮線跡地”

どうやら本当に線路だったらしい。こんな場所が家の近くにあったんだ。
その日はとても気温が高く、絶好の休憩スポットを発見した私はすこし足を休めたくなった。

そこで一匹の猫に出会った。
錆びた線路のような色のふさふさした毛。金色の鋭い眼光。なかなかイケメンだった。
私はベンチに座り、しばらく彼(彼女)を観察することにした。
線路の上をとことこと歩き、咲き乱れるたんぽぽと戯れ、自分の身体を舐め、時折あくびをする。
まさに自由気ままという言葉が似合う。

「うわっ」
突然、彼が私のひざの上に飛び乗ってきたのである。
やたらと人に慣れている。
こんなに人間を恐れない猫は初めてだった。

小樽の街には猫が多い。
アパートを出て、最寄りのスーパーに晩ご飯の買い出しに行って帰ってくるまでの間に、あわせて3匹の猫に行く手を阻まれるなんてことは、日常茶飯事だ。
誰が世話をしているのかは知らないけれど、どこか懐かしさを感じさせる街並みと気ままな猫のコンビネーションは、街ゆく人の心を癒してきたことだろう。

そんな小樽の街の中でも、こいつはひと味違った。
ひざに乗ったかと思えば、今度はぴょんと飛び下り、足にこねこねと身体をこすりつけてくる。かと思えば、また線路に沿って歩きだす。
私の足は毛だらけになった。

あっけにとられながらも、悪い気はしなかった。
すこし遠くのベンチに座っていたおばあさんが、くすくすとほほ笑んでいたように見えた。

なんでもない日の、なんでもない出来事だったのだけれど、あの時の青い空とのんびりとした空気を、今でもよく覚えている。
夏が来たら、またあの手宮線跡地に行ってみよう。

(もよう)