石倉の美術館

morihiroko_stasys_museum

小樽には古い建物を改装して、今も活用しているものが少なくない。
私のアパートの近くにある、古い石倉を改装した美術館もその一つだ。
美術館の入り口には赤い絵の具で男の絵が描かれていて、石倉には蔦が絡まっており、特に夜になると不気味な雰囲気を漂わせていた。正直な話、はじめのうち私はこの美術館に良い印象を抱いていなかった。でも、そんなところにこそ魅力が隠されているのが、小樽の面白いところだ。

私は大学3年生になっていた。大学入学当初ほどではないが、例の赤い絵の具の男のことも蔦が絡まった石倉のこともあまり好きになれずにいた。もちろん、その美術館にはまだ行っていない。しかしある日、私は好奇心に負け、ついにその美術館へ行くことを決意し、赤い絵の具の男と対峙した。

ゆっくりと扉を開けて中に入ると、予想外に小奇麗な内装に少し安心した。思えば、このエントランス部分は新しい建物であったか。エントランスには奇妙だがかわいらしい絵やオブジェが飾られていて、私は一気にそれらの作品を気に入ってしまった。シュールレアリスムだろうか。超現実的な作品が多い。それらに見入っていると、奥から一人の女性が姿を現した。美術館の方らしい。彼女は入館料を受け取ると、私を更に奥へと案内してくれた。そう、例の古い石倉の部分へとである。

重たそうな扉を開けると、中には版画作品がたくさん展示されていた。どこか別の世界のことを描いているような、独特でとても繊細な作品たちだった。石倉の雰囲気と相まって、この空間全体がどこか神秘的な空気に包まれている。おそらくこれらの作品だけで見ても十分に素晴らしいのだろうが、この石倉の中で味わうそれらの作品はより輝いているように感じた。私は時間も忘れてそれらの作品を楽しんだ。

美術館を出たときの私の心は晴れやかだった。入るまでは古くて不気味な石倉だと辟易していたが、そこがこんなにも素敵な空間であることに感動し、それ以来私は赤い絵の具の男と蔦の絡まった石倉のことを少し好きになった。古いものが不気味で恐ろしいという先入観は、小樽での暮らしには少し邪魔なものだったのかもしれない。

(ぬるぬるシンバル)