船見坂が語る小樽
フィクションの世界に迷い込んでしまったかのような感覚とは、まさにこのことなのだろうか。坂を登る途中、ふと振り返ってみた時に、ようやくその坂の名前の意味を理解した。長く延びた道の先には、広大な小樽港が広がっている。「船見坂」とは、まさにこのことを意味しているのだと、ようやくわかった瞬間だった。
道が海に落ちているように見えるため、眺めていると自分が海に引きずり込まれそうになる感覚に陥る。それほど魅力がある、ということなのだろうか。
この坂、映画やテレビの舞台になることも多いみたいだ。当然だろう、小樽中を歩いていても、この坂ほどこう配の急な坂はあまりなく、海側を見れば綺麗な小樽港を見ることができる。港町としての小樽、坂のまちとしての小樽、この両方を一度に実感できる坂である。映画やテレビだけでなく、小説や絵画にも登場することにもうなずける。まさに、小樽を代表する坂の一つと言ってもいいだろう。
船見坂が魅力的な理由はこれだけではないと思う。
船見坂の途中には、船見橋というJR函館本線の跨線橋となっている橋が存在する。ここからは小樽駅の構内を眺めることができる。小樽への入り口の一つとも言えるこの小樽駅構内を船見橋から見るたびに、初めて小樽という地に足を踏み入れたあの日のことを思い出す。冬の雪が降る季節などにこの船見橋から小樽駅構内を眺めると、日の光と雪明かりが作り出すグラデーションがなんとも美しい。
また、坂の登り口付近には、三角市場と中央市場が存在し、小樽駅にも近いことから、戦後この二つの市場が栄え活躍した時代へ思いをはせることになる。
港町小樽。坂のまち小樽。そして戦後栄えた市場。まるで船見坂が、小樽ってこんなところだよ、と教えてくれているかのような気分だ。
この船見坂は、小樽について何も知らなかった私にとって、今でも強く印象に残っている坂の一つとなっている。
(研)