夏の忍路漁港

oshoro_sunset

忍路といえば、私の中では「小さな漁港、透き通る海、海水浴、森に囲まれた静かなところ」というイメージだった。今は、海水浴場は開設されていないが、私を含め、昔この石浜で泳いだ記憶がある人も多いに違いない。
そこが夕日の絶景スポットだと知ったのは、ごく最近の事だ。

忍路湾は両側を岬で囲まれ、湾の中の海はいつも穏やかだ。夏の緑が濃くなる季節も、雪に覆われ、岬の崖に巨大なつららができる冬の景色も実に美しい。湾の西側には大正13年(1924年)に建てられたという北海道大学北方生物圏フィールド科学センター忍路臨海実験所の古い建物があり、忍路湾の風景に彩りを添えている。訪れる人は少ないが、小樽市の八区八景にも選ばれた絶景スポットだ。

その美しい漁港で見られる神秘的な風景が、海に沈んで行く夕日なのだ。だが、忍路の西側に積丹半島があるため、海に夕日が沈むのを見られるのは初夏から8月中頃までのほんの短い期間だ。

そんな噂を聞いた私は今年こそはと、ある晴れた日の夕方、忍路に向かって車を走らせた。到着したのは太陽が沈む20分ほど前。慌ててカメラを構える。漁港にはすでに何人かのカメラマンがいて、シャッターを切っていた。
どんどん沈んで行く太陽。沈むにつれて空と海があらゆる色に変わって行く。時々カモメが鳴きながら目の前を通り過ぎて行く。ため息が出るような美しさだった。

太陽が完全に海に沈んだ頃、周りにいたカメラマンたちは撤収し始めていた。出遅れた私はもう少しねばる事にする。ねばった甲斐があり、この日はオレンジから青への美しいグラデーションの空が現れ、海は同じ色を映し出していた。結局帰り支度を始めたのは日の入りから1時間ほど経った頃だった。

小樽に来たら、新鮮な海の幸を食べる前に、ちょっと足を伸ばして自然が作り出した美しい小さな湾の小さな漁港をぜひ見ていただきたい。きっと小樽産海の幸の味が格段に美味しく感じられるだろう。
もし、あなたがこの美しい漁港を見に来る事があれば、ここがいつまでも人の心を癒す絶景スポットであり続けるために、漁業者の邪魔にならないように、そっと自然を満喫していただきたい。

(まがら りか)