穴滝

anataki

 小樽の市街地を流れ下る勝納(かつない)川の源流付近に、穴滝と呼ばれる滝があります。名前からして少々不思議な雰囲気を漂わせるその滝は、岩肌に開いた大きな洞穴の縁を流れ落ちる奇妙な景観が有名です。昭和の初め頃には穴滝明神なるものが祀られ、難病を患った人々が治癒を願って滝に打たれに来たなどという話も伝わります。そんなせいか普通の名勝とはひと味違う、何やら妖しいイメージがつきまとう場所でもあります。

 この滝を訪れたのは6月の半ば、木々の緑が未だ新緑の瑞々しさを残す頃でした。私は過去に夏冬合わせて数回訪ねているので、女性2人のリクエストを受けてのガイド役です。滝への道は大部分が平坦な林道で、山登りとは違って簡単に歩くことができます。とはいえ一般に馴染みのある景勝地ではないだけに、勝手がわからないとなかなか気軽には行けないのも確かです。

 奥沢水源地を過ぎ、細い未舗装道路をさらに進んで車止めのゲートに到達。ここが歩き始めです。林道は勝納川の流れに並行しているものの数10m高いところに拓かれ、道から川を見られるところはほとんどありません。約1時間歩いたところでようやく林道を外れ、脇道に入ります。ここからが山道で、岩をまたぎ、ぬかるみを越えて進むこと15分。両側の谷間が狭まり、前方に大きな岩肌が立ちはだかります。流れ落ちる水の音が聞こえてきました。これが穴滝です。

 奇景にしばし見とれますが、みんなそれぞれ写真撮影にかかります。洞窟の内側から、水流のすぐ近くに寄って、あるいは小高い場所から見下ろすように……。アングルはさまざまで凝り出すとキリがなく、1時間以上はあっという間に過ぎました。ひと段落したところで持参のガスバーナーでお湯を沸かし、そうめんを茹でます。冷たい沢水で締めて涼味たっぷりの味わいでした。

 この日は他にも数人、滝まで歩いてきた人がいましたが、皆さん長居せずに帰って行きました。滝で2時間も過ごしたのは私たちだけです。いや〜楽しかった。

 小樽に住んでいても、行ったことがないという人が意外に多いこの穴滝。山歩きに慣れていない人でも行きやすいので、一度見に行ってはどうでしょう。念のためにクマ避けの鈴は忘れずに。

(佐藤圭樹)