染織アトリエKazu
小樽の色は何色でしょうか。
冬の白、春になると一斉に咲く花々の色、目にまぶしい新緑など、たくさん浮かびますが、やはり一番は海と空の「碧」ではないでしょうか。季節、天気、また時間によって、さまざまに変化するその色は、人の創作意欲をかきたてるような神秘の力を持っているのだろうと思います。
色内に明治の石蔵を生かした素敵なお店があります。
染織アトリエKazuです。
小樽で生まれ育った染織アーティスト寺岡和子さんが開いたお店で、一階は染めや織りの器具がひしめくアトリエになっており、2階は作品を買うことができるショップです。ショップでは、コースターやランチョンマットから、シルクの大判のストールやセーターまで、丁寧に織られ美しく染められた作品が並べられています。
寺岡さんは、小樽の海や山、そしてきれいな水や、まっすぐ素直に落ちてくる雨の美しさを形にしたいと、この地で30年以上制作を続けているそうです。北海道で織物の伝統を形作るために、北海道の羊毛にこだわりを持って、原毛の汚れを除くところから手間をかけてホームスパン(羊毛を染め、手紡ぎで糸を作り織り上げてできた生地)を仕上げているそうです。
エルサ・ベスコフの『ペレの新しい服』という絵本があります。ペレという男の子が、服を新調するために、飼っていた羊の毛を刈ります。そして、人の手を借りながらその羊毛で糸を紡いだり布を織ったり染めたりして新しい服を仕立て、毛をもらった羊に見せに行くというお話です。羊こそいませんが、アトリエKazuでの風景はまさにこの世界です。普段、着ているものがどのようなプロセスを経て形作られているかということは、なかなか見えづらいものです。染織アトリエKazuで作業を見せていただき、工業化される前はこんなに手をかけて作られていたということが分かり、自分がいかにものを知らないかと考えさせられました。
食べることや服を着ることなど、「暮らす」ことが生きることだとしたら、そこをおろそかにすることは、人生をおろそかに過ごすことにつながるのではないかと感じました。
寺岡さんは言います。
「北海道にアイヌ文化以外の染織の伝統はないけれど、伝統は今作っているんです。」
この素晴らしい創作活動をずっと続けていってほしいと願います。
(川)