花園橋の桜

hanazonobashi

夕暮れ時、ちょっと疲れた仕事の帰り路、橋のうえを差し掛かった時、下を列車が走って行ったら、あなたはどうするだろう?
春の息吹が感じられる暖かい朝、橋のうえを歩いていた時、下を列車が過ぎ去って行くのが目に入ったら、あなたは何を思うだろう?

線路の上を渡る跨線橋、どの街にもある当たり前な風景。
普段は何も考えずに通り過ぎるが、ふとした瞬間に列車に目をやってしまう。家に帰りたくないような時につい立ち止まってしばらく列車を眺めてしまう、そんな風景。

きっとそれはどんな人の心の中にも幼い頃からある風景。そして小樽の街にもある風景。当たり前な風景だが、当たり前だからこそ、そんな橋に差し掛かると何かを思い出して、足を止めて走り去る列車を見送ってしまうのかもしれない。

そんな跨線橋の中でも私がよく通るのは花園橋。

片側一車線、歩道もない狭い橋。
鉄錆色になった鉄骨が橋の古さを感じさせる。

花園橋からは緑濃き夏も紅葉の鮮やかな秋も白い雪景色の冬も絵はがきのように素敵な景色が見られるが、一年で一番華やかで心躍るのは、桜が満開になる春だ。

線路脇の土手に並ぶ桜並木は、橋の上まで迫ってくるように枝を伸ばす。その桜の下を走って行く列車の姿は、どことなく懐かしいような、心安らぐような気持ちにさせてくれる。
幼い頃に親と電車に乗って出かけた事や修学旅行で友達と騒いだ列車の旅を思い出したり、「遠くへ行きたい」とまだ見ぬ地に思いを馳せたり、朝日に輝く列車を見て「今日も一日頑張ろう」と再び歩き出したり。

移り変わる季節を感じ、走り過ぎて行く列車の姿を見ながらレールのきしむ音が聞こえるこの場所が、私は好きだ。ただの狭くて短い橋なのに、私は鉄道ファンでもないのに。

そして今年も桜が咲くと多くの人が花園橋を訪れていた。
昨年の春、花園橋から見えていた旧グランドホテルや商業施設の建物は、今年の桜が咲く前にすっかり取り壊され、影も形もなくなっていた。来年の秋には新しい建物がたつという。少し寂しいが、街はまた新しい表情をここから見せてくれるに違いない。

こんな花園橋と満開の桜、来年はあなたもご自分の目で見に来ませんか?

(まがらりか)