温かい言葉

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テレビの普及などによって昔よりは減ったと思いますが、その土地の言葉は、根強く、人から人に様々に受け継がれています。

九州出身の私は、小樽に来たばかりのとき、未知の小樽ことばにいろいろと驚かされました。
「椅子」のアクセントが「い」の方にあったり、トンネルのアクセントが英語の方に近かったりと、アクセントやイントネーションの違いに、聞き取れず何度も聞き返したこともあります。

また、遊び疲れてぐずる子どもを見て、義母に「こわいんだろうねぇ」と言われ、「え、わたし怖かった???」と戸惑ったり、「かぎかった?」と言われ、「え、鍵買わなきゃいけないの??」と焦ったり。「こわい」とは小樽ことばで「疲れた、くたびれた」、「鍵をかる」は「鍵をかける」という意味です。鍵のことを「じょっぴん」という場合もあり、「じょっぴんかる」で「鍵をかける」になります。こうなると、知らない人にとっては、まるで新種の生物の名前のようです。

「~さる」という言葉の使い方をマスターするのも苦労しました。「つい~してしまう」や「自然と~してしまう」ということを言いたいときに「使役」、「必然」のように使うのですが、自然と口をついてくるようになるまでに何年もかかりました。「子どもがいると笑わさるね」というように使います。「このボールペン書かさる」というように「~できる」という意味で使うこともあるようです。
また、海が近く水産業が栄えた小樽では、威勢のいい「浜言葉」を話す人もいます。

数ある小樽ことばの中でも、私が一番好きな言葉は、「なんもだよ」です。

これは「大したことないよ、気にしないで」という気持ちのこもった言葉です。子どもが小さいとき、出かけた先で、バスの中で、何度もこの言葉をいただきました。困ったときに手助けをしていただいてお礼を言うと「なんもだよ」と返ってくるのです。なんとも温かい言葉ではありませんか。

若い頃は、自分が人の助けなしにやっていけるような気になっていましたが、子育ては、人の助けなしには成り立ちません。子育てを通して、人に助けていただくことのありがたさを知り、人に助けを求めることができるのが本当に自立しているということなのだと学ぶことができました。

私も「なんもだよ」をいただいた分だけ、誰かに返していけたらなぁと思っています。
 

(川)