ビフテキ

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昭和36年生まれの僕が子供の頃に食べた肉といえば、
ひたすら鯨だった。
特に、うちでは鯨肉の生姜焼きがよく食卓に出ていた。

焼かれた鯨肉は、筋が硬くなかなか噛み切れない。

親は、よく
「しない、しない」
と言いながら食べていた。

たまのご馳走で食べる肉と言えば、
圧縮の丸いマトンジンギスカン。
「ラム」ではなかった。
まだホットプレートがない時代。
焼いた時に家中に脂が飛ぶので、床に新聞紙を敷き詰めてから、
あのジンギスカン鍋で焼いて食べた。

スキヤキと言えば豚肉だった。

なので、僕は大人になるまで
「牛肉」というものを食べたことがなかった。

 

大学を卒業し社会に出ると、お給料を頂く。
それほどの額でないにしろ、
貧乏学生時代の数倍のお金を使うことができる。

僕は、ぜひ「ビフテキ」というものを食べてみたかった。
社会に出るのが少し遅れた僕は、
25歳にもなるのに一度も食べたことがなかった。

初めてもらった夏のボーナスで「ビフテキ」を食べようと、
小樽駅前の「小樽国際ホテル」にある
レストラン「ボルドー」を予約した。

ついこの間までは貧乏学生だったのに・・・・

初めてのレストラン。
何を着て行ったらよいか分からず、スーツで行った。

ヨタヨタとワインを頼んだ。

テイスティング。

なんのこっちゃ。

そして、生れて初めての「ビフテキ」。

見たこともないデカい肉。
肉をナイフで切るということだけで、ひたすら感動した。
本当に美味しかった。

 

エスカルゴなるものを生れて初めて食べたのは、
「北海ホテル」の最上階のスカイラウンジだった。
ゆっくりと床が回るこのスカイラウンジで食事を楽しみつつ、
美しい小樽の夜景を眺めた。

・・・・・

ひとり暮らしを始めたのも小樽だった。
そして、社会人となり、
少しこじゃれた大人の真似事を始めたのも小樽だ。
小樽は、どんな節目でもきちんと答えてくれる場所が必ずある。

あのこじゃれた真似事から20数年が経ち、
僕もゆうに50才を越えた。
今度はどんな節目が待っているのかな。

その時は、美味しい寿司でもつまみたいな。

(みょうてん)

写真:小樽写真