天狗山八十八カ所
小樽は不思議な町である。
ずっと住んでいるのに知らなくて、行ったことのない場所がある。
そこにあるのが当たり前すぎて、よく知らないことがある。
どなたとどんな話をしていてそこへたどり着いたのかは、すっかり忘れてしまったけれど、あるときなぜか四国八十八ヵ所の話になった。ご存知、弘法大師空海ゆかりの札所寺院、八十八ヵ所を巡拝するあのお遍路さんの話である。
「行ってみたぁい、でもねぇ遠いねー」
「んー四国だからねぇ。ほれ、したから小樽にもあるっしょ」
「えっ?」
頭の中が?マークでいっぱいになった。
小樽にもある?
知らなかった。ずっと住んでいるのに。
天狗山の登山道のところにかなり昔からあるという。
あると言われてもそれだけではなんだかよくわからなかったが、
その日から頭の中は八十八。
行ってみたいな八十八。
四国じゃなくて天狗山。
行ってみたい見てみたい。
それから約一年のときを経て、ある日とうとう天狗山に上った。
登山道の入り口から広がるアリスワンダーランドのような世界。
「うわぁワクワクする!」「したけどここであってるのかい?」「わっ虫」「ヤダ」「でもちょっと楽しい!」頭の中は吹き出し付きのひとりごとでいっぱい。「うっまた虫」ブツブツ思いながらも足は元気に前へ進んだ。
突然、目の前に現れたカラーの大師様。並んだお地蔵さん。
誰がいつどんな思いで立てたのか、言葉を失った。
小樽天狗山四国八十八ヵ所霊場。
番号つきのお地蔵さんは途切れながらも登山道沿いに並んでいた。
それにしても何故ここ小樽に四国があるのだろう?
北海道を開拓するため海を渡っていらした私たちのご先祖さまが、遥か遠くの郷里を思い祈り運んだのだろうか。
・・・五十八、五十九・・・六十何番目かでスキー場に出てびっくりした。続きはコースを越えた上にあると思われたがこの日はそこから引き返した。
知らなかった昔の小樽。
山の麓で青い空を仰ぎ、思わず手を合わせた。
(香)10/23記