風と記憶

私にとっての小樽の思い出は、家族や友達と旅行で訪れて、とんぼ玉を作ったり、海鮮丼やあんかけ焼きそばを食べたりといった程度だった。

観光地としての小樽しか知らなかった私が、大学に通うためにほとんど毎日小樽に行くようになって、気付いたことがある。それは、小樽の風が心地良いということだ。

小樽駅で、電車から降りた瞬間に感じる風は、電車に揺られて眠くなった目を覚ましてくれる。大学に向かう途中の地獄坂に吹く風は、額に滲んだ汗を乾かし、まるで励ましてくれているようにも思える。ほのかに磯の香りがして、ひんやりとした港町らしい風だ。

風なんて些細なことかもしれないが、風はその土地の空気そのものであり、雰囲気さえも伝える。札幌の都市部に住む私にとっては、都会の人混みに吹く、もったりとした重い風と違って、小樽の街に海からも山からも吹く、すっきりとした軽い風が魅力的に感じられた。

小樽は歴史ある街であるが、時が経って風景が変わっても、吹く風は変わらない。北海道開拓時代に小樽を開拓した人も、きっと同じ風を感じていたのだろう。
学校帰りに少し回り道をして、小樽運河沿いで石造倉庫群を見ながら感じた風は、ほがらかでありながら、遥かな歴史の雰囲気を纏っていた。

人の記憶は匂いと結びついているというが、実際その通りで、小樽の風の匂いを嗅ぐと、家族や友達と小樽を訪れたときの思い出もよみがえる。
「小樽硝子の灯・彩や」で友達とおそろいのとんぼ玉を作ったこと。あんかけ焼きそばを食べすぎて満腹になり、「あまとう」で食べようと思っていたスイーツが食べられなかったこと。

小樽の風は、訪れた人の記憶も乗せているのだ。
これからも、小樽でたくさんの時間を過ごして、心地良い風と共に思い出を増やしていきたい。

(ユウ)


※本記事の内容は2022年7月時点の情報に基づいたものです。

写真:眞柄 利香