25年

fee-lance

僕はドラムを叩く。ジャンルはロックである。が、50の手習いにして、1年ほど前からヨタヨタとジャズドラムの練習を始めた。
そして先日、月1回開催されているジャズセッションに初めて参加すべく、仕事帰りに小樽行きの列車に乗り、JAZZ喫茶の老舗「フリーランス」へ向かった。

まもなく冬というこの時期、札幌発19時過ぎの列車に乗ると、銭函を越えたあたりから車窓は真っ暗である。

やがてトンネルに入り、張碓を過ぎた。
そして、そのあたりから、札幌に住んでいる僕がなぜか
「これから帰る」
という気持ちになってきた。

・・・思えば30年前の学生時代、わずか4年ではあるが小樽に住んでいた。

その頃の僕は、学校そっちのけでバンド活動に熱中し、喰うに困るほどの貧乏であるにもかかわらず、週3回札幌に通い、最終列車で小樽に帰るという生活をしていた。

何とか絞り出した交通費も往復の運賃で消える。
そしてカラになった財布とスティックケースを手に、真っ暗な車窓を眺めながら、漠然と
「これもいつかはいい思い出になるんだろうな」
と思っていた。

 

久しぶりに列車に乗った体が、そのことを覚えていたのかも知れない。

 

まもなく「フリーランス」に着いた。

20人ほどの人がおり、そのほとんどが学生さんで、大人の参加者は数人だった。
参加者は、僕以外はめちゃくちゃ上手い人たちばかりで、僕はすっかり叩きのめされた。
それでも、50の手習い、参加するだけでも楽しかった。

そんな中、今年で25年もこの月1回のセッションに、札幌から通っているというAさんがいらっしゃった。
素晴らしいドラマーさんだった。
今年で60歳になるという。

それにしても、25年である。

そのAさん、帰りぎわに僕にポツリとこうおっしゃった。
「学生さんがね、いつの間にか僕の子供より年下になっちゃってね。」

そう、「学生さん」は毎年入れ替わる。
だから、何年経っても学生さんは学生さん、年を取らないのだ。
だけど、自分は必ず年を取る。
確実に「学生さん」との年が離れていくのだ。
そして、いつの間にか、自分の子供より年下になるほど年が離れていた。

だけど、それは「フリーランス」へ行けば、いつでも25年前と同じ光景に出会えるということだ。
いつでも「ただいま」と昔に戻ることができる場所があるということだ。

「ただいま」と帰ることができる場所がある安心感。
これは何にも代えがたい。

僕は、何かすごくうらやましくなった。

そして、
「新参者ですが、ぜひ僕もお仲間に」
と思った。

そして、
「フリーランス」はいつまでも「フリーランス」であって欲しい。
そう思った。

(みょうてん)