1年生の私と船見坂
「坂を下る時はエンジンかけなくても進むんだよ、少し乗ってごらん。」
大学に入学してすぐ、3年生の先輩と付き合うことになりました。先輩と一緒に学校から帰る時は必ず、船見坂を通って帰っていました。船見坂から一望できる町の風景や、キラキラと輝いた海を見て、「私は今、憧れの大学生、小樽商大の学生なんだ。」と心を弾ませていた事を覚えています。
先輩は原付を押しながら私の隣を歩き、先輩らしく少し得意げに、授業の話や、アルバイトの話をしてくれていました。当時の私には先輩がとても大人に見え、早く私もそんな大学生になりたいと思っていました。
明治37年、稲穂町で大火事が起き、この大火により多くの家屋は消失したそうです。この火事がきっかけとなって駅前中央通りと龍宮通りとの中間に防火帯として、もう一本の道路を開削することになり、誕生したのが船見坂だったようです。
船見坂を下っていくと、右手に駅に向かう階段があります。私たちはいつもそこを境に別れ、私は階段を下りて小樽駅へ、先輩は自分のアパートへ帰っていきました。坂を下って階段が近づいてくると、私は少し寂しかった記憶があります。
今私は3年生になり、当時の先輩と同じ学年になりました。授業は1年生の頃よりも難しくなり、アルバイトもベテランです。船見坂からの風景を目にすると、1年生の時に感じた、新しい環境への期待感と先輩と帰っていた時のドキドキ感を思い出します。そして当時思い描いていた大学3年生に私はなれているのかな…という感慨深い気持ちになるのです。
都会とはまったく違う雰囲気と海。この風景だからこそ、こんな気持ちになれます。
何十年経っても、この坂からの風景を見るとその時の気持ちを思い出せるといいな、と思います。そして小樽の趣ある町並みや、坂から一望できる海がいつまでも変わらないで欲しいと願います。
(道)